気づかずに最近増えている色がある。

          Favorite Color

 

「最近、望美の持ち物って赤色、多くない?」

学校でお昼を食べていたら―言われた言葉。

「え?」
「いや、だって昨日買ったシュシュもシャーペンも赤だったよ?」
「そういえば、今日使ってるハンカチも赤だよね」

その言葉に思わず持っているものを確認してしまう。
昨日買ったシュシュは、体育のとき用にと買い換えたもので、いつも持ち歩いているポーチにある。
シャーペンも早速使ってるから、筆箱の中に。
ハンカチはポケットの中だから、取り出してチラッと確認。
…うーん、確かに赤が多い。

「今までピンクとかが多かったのに、どうしたの?」
「心境の変化?」

中断していたお弁当を食べながら、言われた言葉を真剣に考える。
赤色で連想することは―たった一人だけなんだけど。
でも、無意識で赤色を買うほど私って寂しかったっけ?

「そいつが赤を買うなら、アイツが原因だろ」

珍しくお昼を食べても教室に居た将臣くんが話に乱入してくる。
…やっぱりそうなのかなぁ。

「アイツ?! アイツって誰?!」
「何、男でもできたの?!」

2人の食いつきに思わず苦笑して、将臣くんを睨みつける。
―再会した場所に居たのだから知ってはいるんだろうけれど今まで―何も聞いてこなかったから何も言わずにいたんだけれど。
とうとう、年貢の納め時、かな?

「まぁ、一応…?」
「一応、なんていったらアイツすさまじい言葉で口説いてくるぞ?」
「あ、やっぱり?」

私たちの会話を黙って聞いてた2人は、少し変な顔。
私たちにとっては普通の会話なんだけどね…。

「…有川くんも知ってるんだよね? 同じ学校の子?」
「ううん、違う」
「…じゃあ、他校?」
「同い年だけど―あ、学年的には1コ上か。でも学校は行ってないかな」
「すさまじい言葉で口説くって…ホスト?」
「まっさかー、違うよ〜。生来の女好きだとは思うけど」

きっとこっちの世界に来ていないときはたくさん女の人口説いてるんだろうなぁ…。
あ、なんかむかついてきたぞ?
きっと嬉々としてたくさん口説いてるんだろうなぁ…。

あー、放課後に武道場に行って竹刀でも振らせて貰おうな。

「の、望美?」
「で、その人はどんな人なの?」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

「で、姫君はどうやって答えたんだい?」

そう言って、目の前に居るのは―赤を身に纏った、時空を越えて出逢った恋人。
ありえない遠距離恋愛だけれど、一ヶ月に一度は何とか都合をつけてきてくれる。
ちょうど、学校でその会話をした1週間後がヒノエくんがこちらに来る予定日だったから、その話をしよう、とずっと考えていたんだよね。
そうして現に今、目の前でコチラの世界で始めて飲んで気に入ったらしいスタバのコーヒーを飲んで、目の前に座っている。

「知りたい?」

季節限定のマンゴーフラペチーノを飲みながら、意地悪な笑み。
向こうの世界に行かない―行けない私に、あっちでの行動を束縛する資格はないかもしれないけれど、好きな人が他の人を口説いたり、キスしたりそれ以上をしていたら我慢できないから。
そして、それを知るすべもないから、少しくらい意地悪しても―いいよね。
なんて、自分を納得させる。

「意地悪だね、今日の望美は。俺、何かしたっけ?」
「んーん、何も? ただ、ちょっと、ね」

残り少なくなった中身をストローでくるくるかき回す。

「もしかして、熊野に居るときの俺の行動を心配してるのかい?」

飲みかけのコーヒーをテーブルに置き、ヒノエくんの手が伸びてくる。
そして、その手が―纏めていない髪を掴み、毛先にひとつ口付けを降らしてくる。
いい加減―慣れてもいい行動なんだけれど一向に慣れない、ヒノエくんの行動。
いちいち赤面する私に、ヒノエくんは嬉しそうに笑うのだけれど。

「俺の姫君は望美だけなのに、馬鹿だね。それとも、望美だけだと証拠が欲しい?」

そう言って私を見つめる瞳の奥に―激しい炎が宿るのを見つけて思い切り首を振る。
けれど―きっと此処を出たら連れて行かれるんだ。
ヒノエくんの想いを受け入れるのに邪魔をされない場所に。

「まぁ、それは望美の返事次第かな。―で、なんと答えたんだい?」

スッと離れて、飲みかけのコーヒーを再び手にして。
問うてくる。
それに私は笑って答えた。



「ヒノエくんはね、私の―なくてはならない、比翼連理の片割れ。
 だから、赤色はヒノエくんを象徴するものだから、無意識に集めていたんだよ」

END