家の最寄り駅で、降りて。私の家へと足を向けた。
久しぶりに譲くんに会う?と聞いたら『男に会う興味はないけど、久しぶりだからね。会って驚かそうか』なんて少し意地悪そうに笑ったヒノエくん。
まだ、授業中だけれどメールで放課、譲くんの部活が終わった後に会おう、とだけ送ったので譲くんに会うのは、放課後。きっと、ヒノエくんが行ったら周りがプチ騒動になるかもだけど、譲くんを驚かすためだもん。
「ここが、私の家よ。で、あそこが将臣くんと譲くんの家」
将臣くんとは、結局熊野で別れたきりでそれきり会うことはなかった。此方に戻ってもこなかったから、将臣くんはアチラの世界で、お世話になったという人たちと幸せに暮らしているんだと思っている。
バッグの中から家の鍵を取り出して、鍵を開く。今日はお母さんは有川のおばさんとランチに行くと前から言っていたから、まだ帰ってきていないのかもしれない。
見慣れぬ様式の家にキョロキョロしているヒノエくんを、家に上げてリビングに移動する。ヒノエくんをソファに座らせると、私はお茶を入れるためにお湯を沸かすためにケトルを火にかけた。
「…ヒノエくん、逢いたかったよ」
やっと、2人きりになれて。今まで電車の中や公道だったから自制していた言葉を、行動を私は実行した。電車の中でも、寄り添っていた。手を繋いでいた。けれど、それでも何か足りなくて。
触れているだけでは駄目だなんて、初めて知った。あの頃は、傍にいるだけで、微笑んでもらえるだけで、言葉をかけてもらえるだけで充分幸せで。
「ああ、俺もだ。俺も、望美に逢いたかった」
紅い瞳が情熱を滾らせて私を見つめる。ヒノエくんの手が伸びて、頭の後ろに手を回されて。
余裕のない、噛み付くような口付けを交わす。
深く、深く交わる口付けを、何度も何度も交わすけれど心はまだ満たされなくて。きつくきつく抱きしめた体に、首に回した手。2人の間にかかる、銀色の橋。
シュンシュン、と遠くでお湯が沸き始める音がする。こんなことならばお湯なんて沸かさなければ良かった。
そんなことを頭の隅で考えながら、口腔を蹂躙するヒノエくんの舌に自分の舌を絡める。
ピー!
暫くすると、ケトルが五月蝿い音を立ててお湯の沸騰を知らせるけれど、離れたくなくて。でも、離れないとこの五月蝿い音は消えなくて。
口付けを離してから、ちょっと待っててね、と告げてコンロの火を消し、ヒノエくんの元に戻る。
ケトルを消すと、室内にある音は空調の音と、私たちの息遣いだけで。その音だけでも愛しいと思ってしまう。
「ヒノエくん、私を熊野に連れてってくれる…?」
ヒノエくんと向き合う形で、ヒノエくんに跨り、座る。目の前には、ヒノエくんの綺麗な顔。
キスの名残かその瞳には熱情が宿っていて、―その熱に私も感染した。
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